平野啓一郎「消えた蜂蜜」『透明な迷宮』

平野啓一郎「消えた蜂蜜」『透明な迷宮』


Kindle版¥515、文庫版¥572(2021/04/19現在)

考えてみよう。
彼は元から狂人だったのか?徐々に狂っていったのか?私は後者を取りたい。復讐をする中で狂ったのではないかと思う。

彼が行っていたのが密かで壮大な復讐だと仮定すると、きっかけは蜜蜂の件ととれる。
筆跡は人となりを示す大きな構成要素だと思うが、その筆跡を奪い、自分の判断で検閲(思想を統制すること)はアイデンティティを傷つけることは、復讐と言えるのではないか。
蜂が一気に消えたのは原因不明だ。諸説あるが、蜂群症候群の原因は今もはっきりとわからないと言われている。それでも青年はその一件から住民たちを恨んでいるのかもしれない。

それと言及しておかねばならぬ可能性としては、途中からかまるまるかはわからないが、この話自体も彼がしたためているかもしれないということだ。復讐を一方的に行うのに、物語は適している。
筆跡を真似できる彼がいる限り、どこまでが嘘でどこまでが本当なのかはわからない。

復讐でないとするならば、次のような仮説はどうだろう。彼は自分のアイデンティティに不安定さを感じていた。そこでいろんな人としていろんな言葉を綴ることで安心した。作中青年は肌が白いこと以外は特に特徴を語られず、彼自身もあまり感情を表に出さなかった。彼が無個性をコンプレックスに抱いているなら、郵便屋として人の手紙を奪うというのもわかる気がするのだ。平野さんの著書『私とは何か 「個人」から「分人」へ』とか『ある男』でも、何が私を私たらしめるのかというテーマだったので…もしかすると。

作品そのものについて丸屋が考えるだけだとこれくらいしか思いつけない。蜜蜂の作品にアンテナを張ってみて、また思いついたら追記する。

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